大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(ワ)9802号 判決

原告

安藤新次郎

被告

株式会社栄家興業

主文

一、被告は原告に対し金二五万五〇八四円及びこれに対する昭和四三年九月一一日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は四分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四、この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告

1  被告は原告に対し金一〇二万七六九〇円及びこれに対する昭和四三年九月一一日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二、被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二、当事者双方の主張

一、原告

(請求の原因)

1 事故の発生 昭和四三年五月一九日午前一〇時五五分頃、東京都杉並区永福町二四八番地先の交差点において、上北沢方面から西永福町方面に向け直進中の原告運転の自動車(登録番号「多摩四め四七二六号」、以下「甲車」という。)に下高井戸三丁目方面から永福町方面に向け進行してきた訴外井上幹夫運転の自動車(登録番号「品川五ぬ八八七八号」、以下「乙車」という。)が衝突し、原告は頭蓋骨々折、脳挫傷、顔面、右下腿各打撲の傷害を蒙り、甲車は損壊された。

2 責任原因 被告は本件事故当時乙車を所有して自己のため運行の用に供していたものであり、また、本件事故は、被告の被用者である訴外井上幹夫が被告の事業の執行として乙車を運転中、その進路の本件交差点手前には一時停止の標識があるのに、これに従い一時停止し左右の安全を確認すべき注意義務を怠つた過失により発生せしめたものである。よつて、被告は、本件事故による原告の受傷に基因する損害については自賠法三条、甲車損壊の損害については民法七一五条の各規定によりこれを賠償する義務がある。

3 損害

(一) 入院中の飲食費(付添人の分を含む) 金一万一二〇〇円

(二) 入院雑費 金五九一〇円

(三) 逸失利益 金五五万八〇〇〇円

原告は、訴外石川トク子と共同で八百屋を経営し、一日金八〇〇〇円の純利益を挙げ、原告はその二分の一の金四〇〇〇円を得ていたのであるが、本件受傷により昭和四三年五月一九日から同年九月一一日まで及び同年九月一二日から同年一一月二〇日まで(この間の逸失利益は一日につき金二〇〇〇円として計算)休業を余儀なくされ、この間に得べかりし金五五万八〇〇〇円の利益を喪失した。

(四) 慰藉料 金五〇万円

以上の諸事実及びその他諸般の事情を総合すれば、原告の本件受傷の慰藉料は右金額が妥当である。

(五) 甲車損壊による損害 金一七万二五八〇円

甲車は、訴外安藤熊造が昭和四一年に中古車を金四〇万円で購入し、本件事故時には、原告は同訴外人から借り受けて使用していたもので、本件事故当時なお金二五万円の価値を有したのであるが、前記損壊により金一七万二五八〇円の修理費を要することになつたため、原告は同訴外人に対して右金一七万二五八〇円の損害を賠償し、同訴外人の被告に対する右甲車修理代金一七万二五八〇円の損害賠償請求権を代位取得した(なお、右訴外人は右金額を支出しても甲車の原状回復が可能かどうかに疑問があつたので、これを廃車した。)。

(六) 弁護士費用 金一〇万円

4 右のとおりであつて、原告は本件事故により合計金一三四万七六九〇円の損害を蒙り、このうち金一〇万円については被告から弁済を受けたものの、なお金一二四万七六九〇円の損害がある。よつて、被告に対しこのうち金一〇二万七六九〇円及びこれに対する本訴状が被告に送達された翌日たる昭和四三年九月一一日から支払ずみにいたるまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶ。

二、被告

1  (請求原因に対する認否)

(一) 第一項につき、原告の傷害の部位・程度は争う。その余の事実は認める。

(二) 第二項は認める。

(三) 第三項につき、(三)中、原告が本件受傷により昭和四三年五月一九日から同年八月二〇日まで休業を余儀なくされたことは認める。その余は争う。

2  (抗弁)

過失相殺

(一) 本件事故の発生については、甲車を運転する原告にも本件交差点手前において徐行して左右の安全を確認し、または警笛を吹鳴するなどして交通事故発生を防止すべき義務があつたのにこれを怠つた過失がある。

(二) 被告は、原告の本件受傷により、原告が入院した訴外樺島病院における付添看護費金一五万六四九〇円、治療費等金五四万八四二六円、合計金七〇万四九一六円を支払つた。

(三) よつて、右金額を原告が本訴において請求する金額を合わせ、損害額の算定にあたり前記原告の過失が斟酌されるべきである。

三、原告

(抗弁に対する認否)

過失相殺の主張中(二)の事実は認める。その余は争う。

第三、証拠関係〔略〕

理由

一、事故の発生と責任原因

請求原因第一項記載の事実は、原告の傷害の部位・程度をのぞいて当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、原告が本件事故によりその主張のとおりの傷害を蒙つたことは、これを認めるに充分である。そして請求原因第二項記載の事実は当事者間に争いがないから、被告は原告主張のとおり本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

二、損害

1  入院中の飲食費・雑費 金一万七一〇〇円

〔証拠略〕によれば原告が本件受傷により一一八日間の入院を余儀なくされたことが認められ、原告のごとき受傷により入院した場合、入院により特に必要を生ずる補食費、雑費等として、すくなくとも一日金二〇〇円程度の経費を必要とすることは当裁判所に職務上顕著な事実であるから、右入院一日につき金二〇〇円の割合をもつて積算した金額の範囲内における原告の右入院中の飲食費等(付添人の分も含む)の主張は理由があるものと認める。

2  逸失利益 金二四万七九九九円

原告が本件事故当時、その妹である訴外石川トク子と共同で野菜その他の青果物、乾物罐詰類等を販売する八百屋業を経営し、その純利益を右訴外トク子と折半していたが、本件受傷により結局廃業するにいたつたこと及び右のごとく廃業するにいたらなかつたとしても、原告がその主張のとおり昭和四三年一一月二〇日まで(合計一八六日、なお原告が本件受傷により昭和四三年五月一九日から同年八月二〇日まで休業を余儀なくされたことは、当事者間に争いがない。)休業の必要があつたことは、〔証拠略〕を総合すれば、これを認めるに充分である。そこで原告の所得について見るに、〔証拠略〕を総合すれば、昭和四三年一月から同年四月までの原告らの前記営業上の野菜その他の青果物の仕入高は合計金一〇六万一五九一円(月平均金二六万五三九八円弱)であり、これと青果物以外の乾物類の仕入高を合算すれば、その仕入高は総額において月間金三〇万円を下るものではないと認められ、また、右営業上の売買利益率は、概ね仕入高金一万五〇〇〇円に対して売上高金二万円で約二五%(月間売上推計額金四〇万円、月間売買利益率一〇万円)であるが、右利益からさらにガソリン代、家賃、その営業及び店舗維持のための諸経費が控除されなければならないものであること以上の事実が認められ、この事実と〔証拠略〕を総合して考えると、原告らの右営業による純利益率は、控え目に見て総売上高の二〇%と認めるのが相当であり、したがつてその純利益は月間金八万円であるというべきである。〔証拠略〕中右営業による純利益が右金額をこえるものであるとする部分は計算上の根拠を欠きそのまま措信できず、他にこの認定を左右する証拠がない。以上の事実によれば原告の月間所得は金八万円の二分の一の金四万円(一日平均一三三三円三三銭)であるから、これに基づき原告の前記休業によつて喪失した得べかりし利益を計算すれば、その額は金二四万七九九九円となる。

3  過失相殺

〔証拠略〕を総合すれば、本件交差点の交通整理も行なわれていず、また甲車の進路から乙車の進路に対する見とおしは、生垣とブロツク塀にさまたげられて困難となつているのに甲車運転の原告は時速二五ないし三〇キロメートルの速度で本件交差点に進入したため本件事故にいたつたものとみとめられ、この認定に反する証拠がない。右事実によれば本件事故の発生については、原告にも道交法四二条に違反し、徐行義務を尽さなかつた過失があつたというべきであり、原告のこの過失と乙車運転の訴外井上幹夫の前記過失を対比するとその割合は概ね原告の三に対し訴外井上の七と認めるのが相当である。

ところで、原告の本件受傷による財産的損害は、叙上認定の金二六万五〇九九円と被告において負担したことにつき当事者間に争いがない付添看護費、治療費等の計金七〇万四九一六円の合計金九七万〇〇一五円であるから、これに前記の過失割合を斟酌して過失相殺をすれば、被告において賠償の責に帰すべき損害額は、右金九七万〇〇一五円のうちの金七一万円と認めるのが相当である。

4  慰藉料 金三〇万円

以上の諸事実その他本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すれば、原告の本件受傷による精神的苦通に対する慰藉料は右金額をもつて相当と認める。

5  甲車損壊による損害

〔証拠略〕によれば、甲車が本件事故により損壊されたことによる修理費用は金一七万二五八〇円と見積られていることが認められるのであるが、訴外安藤熊造においてこれを修理することなく廃車したことは原告の自陳するところであり、また原告において右修理費用を負担したことについても、甲車の本件事故当時の価額についても何ら立証するところがないからこの請求は爾余の判断を用いるまでもなく失当たるをまぬかれない。

6  損害の填補

以上のとおりであつて原告の本件事故による損害の総額は合計金一〇一万円となるところ、このうち金七〇万四九一六円を被告において弁済したことは当事者に争いのなく、また、本訴において請求する損害のうち金一〇万円を被告が弁済したことは原告の自陳するところであるから、これを控除すればその残額は金二〇万五〇八四円となる。

7  弁護士費用 金五万円

右の損害につき原告が本訴訴訟代理人にその取立を委任し、その手数料及び報酬を支払うべき債務を負担するにいたつたことは弁論の全趣旨によつて明らかであるが、叙上認容損害並びに本訴の推移にかんがみ被告において賠償の責に帰すべき弁護士費用は金五万円をもつて相当と認める。

三、よつて原告の本訴請求は、被告に対し金二五万五〇八四円及びこれに対する本訴状が被告に送達された翌日たること記録上明らかな昭和四三年九月一一日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから正当として認容し、その余の請求を失当として棄却し、民訴法九二条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原島克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例